大判例

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最高裁判所第三小法廷 平成3年(オ)1724号 判決

上告人

大畑町部落有財産管理組合

右代表者組合長

加藤正夫

上告人

加藤正治

右両名訴訟代理人弁護士

高木修

被上告人

木下里美

被上告人

森理江

右両名法定代理人亡浅井永生相続財産管理人

木下里美

右両名訴訟代理人弁護士

森田尚男

被上告人

株式会社井上段ボール

右代表者代表取締役

井上博司

右訴訟代理人弁護士

浅野隆一郎

被上告人木下里美、同森理江補助参加人

水野利廣

被上告人木下里美、同森理江補助参加人

株式会社山廣製陶所

右代表者代表取締役

水野利廣

右両名訴訟代理人弁護士

伊藤典男

伊藤倫文

主文

原判決を破棄する。

本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理由

一上告代理人高木修の上告理由第一点について

1  入会権は権利者である一定の村落住民の総有に属するものであるが(最高裁昭和三四年(オ)第六五〇号同四一年一一月二五日第二小法廷判決・民集二〇巻九号一九二一頁)村落住民が入会団体を形成し、それが権利能力のない社団に当たる場合には、当該入会団体は、構成員全員の総有に属する不動産につき、これを争う者を被告とする総有権確認請求訴訟を追行する原告適格を有するものと解するのが相当である。けだし、訴訟における当事者適格は、特定の訴訟物について、誰が当事者として訴訟を追行し、また、誰に対して本案判決をするのが紛争の解決のために必要で有意義であるかという観点から決せられるるべき事柄であるところ、入会権は、村落住民各自が共有におけるような持分権を有するものではなく、村落において形成されてきた慣習等の規律に服する団体的色彩の濃い共同所有の権利形態であることに鑑み、入会権の帰属する村落住民が権利能力のない社団である入会団体を形成している場合には、当該入会団体が当事者として入会権の帰属に関する訴訟を追行し、本案判決を受けることを認めるのが、このような紛争を複雑化、長期化させることなく解決するために適切であるからである。

2  そして、権利能力のない社団である入会団体の代表者が構成員全員の総有に属する不動産について総有権確認請求訴訟を原告の代表者として追行するには、当該入会団体の規約等において当該不動産を処分するのに必要とされる総会の議決等の手続による授権を要するものと解するのが相当である。けだし、右の総有権確認請求訴訟についてされた確定判決の効力は構成員全員に対して及ぶものであり、入会団体が敗訴した場合には構成員全員の総有権を失わせる処分をしたのと事実上同じ結果をもたらすことになる上、入会団体の代表者の有する代表権の範囲は、団体ごとに異なり、当然に一切の裁判上又は裁判外の行為に及ぶものとは考えられないからである。

3  以上を本件についてみるのに、記録によると、上告人大畑町部落有財産管理組合は、大畑町の地域に居住する一定の資格を有する者によって構成される入会団体であって、規約により代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定しており、組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず存続することが認められるから、右上告人は権利能力のない社団に当たるというべきである。したがって、右上告人は、本件各土地が右上告人の構成員全員の総有に属することの確認を求める訴えの原告適格を有することになる。また、右上告人の代表者である組合長加藤正夫は、訴えの提起に先立って、本件訴訟を追行することにつき、財産処分をするのに規約上必要とされる総会における議決による承認を得たことが記録上明らかであるから、前記の授権の要件をも満たしているということができる。前記判例は、村落住民の一部の者のみが全員の総有に属する入会権確認の訴え等を提起した場合に関するものであって、事案を異にし本件に適切でない。

そうすると、右と異なる見解に立ち、右上告人が原告適格を欠くとして本件総有権確認の訴えを却下した原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があり、論旨は理由がある。

二同第二点について

1 権利能力のない社団である入会団体において、規約等に定められた手続により、構成員全員の総有に属する不動産につきある構成員個人を登記名義人とすることとされた場合には、当該構成員は、入会団体の代表者でなくても、自己の名で右不動産についての登記手続請求訴訟を追行する原告適格を有するものと解するのが相当である。けだし、権利能力のない社団である入会団体において右のような措置を採ることが必要になるのは入会団体の名義をもって登記をすることができないためであるが、任期の定めのある代表者を登記名義人として表示し、その交代に伴って所有名義を変更するという手続を採ることなく、別途、当該入会団体において適切であるとされた構成員を所有者として登記簿上表示する場合であっても、そのような登記が公示の機能を果たさないとはいえないのであって、右構成員は構成員全員のために登記名義人になることができるのであり、右のような措置が採られた場合には、右構成員は、入会団体から、登記名義人になることを委ねられるとともに登記手続請求訴訟を追行する権限を授与されたものとみるのが当事者の意思にそうものと解されるからである。このように解したとしても、民訴法が訴訟代理人を原則として弁護士に限り、信託法一一条が訴訟行為をさせることを主たる目的とする信託を禁止している趣旨を潜脱するものということはできない。

2  これを本件についてみるのに、記録によると、上告人加藤正治は、訴えの提起に先立って、上告人大畑町部落有財産管理組合の総会における構成員全員一致の議決によって本件各土地の登記名義人とすることとされたことが認められるから、本件登記手続請求訴訟の原告適格を有するものというべきである。

そうすると、右と異なる見解に立ち、上告人加藤正治が原告適格を欠くとして本件登記手続請求の訴えを却下した原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があり、論旨は理由がある。

三結論

以上の次第で、原判決は破棄を免れず、更に本件を審理させるためこれを原審に差し戻すこととする。

よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官可部恒雄 裁判官園部逸夫 裁判官大野正男 裁判官千種秀夫 裁判官尾崎行信)

上告代理人高木修の上告理由

第一 上告理由第一点

原判決は上告人大畑町部落有財産管理組合(以下上告人組合という。)の被上告人木下、同森に対する本件土地の総有確認請求について、判断の逸脱又は理由不備の違背があるので破棄すべきである。

一 原判決上告人組合の沿革、性格、本件土地の所有形態、その取得、管理について次の事実を認定している。

1 本件土地を含む本件共同財産を入会地として管理してきた住民団体が、大畑部落民の入会団体として大正三年頃から次第に組織を整備し、昭和四八年に上告人組合を設立し、昭和五二年に名称を現行のとおり改めたこと、

2 その構成員はいわゆる「つきあい」の世帯主で、引続き五〇年以上大畑地域内に居住する者とされ、昭和五二年一二月現在五三名(転入者である準組合員を含む)であること、

3 本件土地は登記簿上大正四年五月二六日受付を以って、同月二〇日売買を原因として加藤音次郎他二三名の共有に移転登記がされているが、当時からの慣習で所有権の共有持分を他に譲渡することはできず、分家転居のため大字大畑に居住しなくなったときは当日限りこれを没収されることとされ、本件土地の利用方法はこれに立ち入っての伐採等に限られていたこと、

4 本件土地の所有の実態は「大字大畑持」(大正三年)あるいは「大畑町部落有財産」(昭和五二年)と規約上呼ばれ、上告人組合の構成員のみがその使用収益権を有し、組合員資格の得喪がこの使用収益権限と結びついている上、持分譲渡は禁止され、被上告人組合の統制が強く働いていて、本件土地の収益は全て同組合に帰属し、支出先は共同施設建設費用、管理費用に限定されていること、

5 昭和四〇年代以降は本件土地に立ち入って伐採する等の利用はされなくなり、その多くを工場用地、鉱業用土地に賃貸して賃料収入を得る収益方法に移行したが、なお、本件土地が組合員である大畑町地域の共同収益の対象であって、その権利形態が入会権であり、共有ではなく総有であることの基本的権利関係に変更はないこと、

二1 しかしながら、原判決は上告人組合の本訴請求の根拠は入会権であって、入会権は、権利者である大畑町の一定の部落民、即ち、組合員に総有的に帰属するものであるからその権利の確認を、対外的に非権利者である被上告人木下、同森に対して請求するには、権利者全員が共同して行うことが当然であり、且つ必要であること、一部の権利者によって提起された確認判決の効力が、団体的権利者である入会権の性質上当事者とならなかった他の権利者にも及ぶこととなり、特に敗訴判決の場合には甘受し難い不利益を蒙る結果となるからであるとし、最高裁昭和四一年一一月二五日判決二小・民集二〇巻九号一九二一頁を掲記している。

2 更に、上告人組合の甲第一五号証の規約によれば、上告人組合は大畑町部落有財産の管理体制を整え、部落住民の福祉に供することを目的として設置された管理機構にすぎないと断定している。

三1 しかしながら、上告人組合は、原判決が前記認定したとおり、大畑町の部落民(ここでは特に入会権を有していた者をいう。)全員を構成員とした、いわゆる権利能力なき社団であるから、団体構成員の個々的立場からみれば、仮にその個々的な権利形態が入会権であり、権利者間の関係は総有であろうとも、対外的に非権利者(非組合構成員)に対して訴訟手続においてその権利確認を求めるについて、当事者適格が認められるのは当然である。

2 又、原判決が掲記した最高裁判決の事件の内容は入会権確認を求める訴えではあるが、部落総数三三〇名のうち訴状に名をつらねた部落民の数は三一六名で、その後取下げが相つぎ、一審判決をうけたのは二六五名、控訴判決を受けた者は二一六名、上告判決をうけたもの一二八名であって、そもそも入会権の帰属する部落の範囲が不明確であり、各入会権者の適否も不明確な事案である。

しかして右判決の論旨は、かかる事件において原告敗訴判決が出たときは、当事者とならなかった者に不利益を及ぼすこととなり、これを避けるためには再訴の途を認めざるを得ず、その結果、既判力の範囲が不確定になるというにある。

3 ところが、上告人組合は原判決認定の如く、旧来の入会権を持った各人が全員一人残らず参加して設立され組織された団体であり、入会権を有した者で上告人組合に非加入の者はないのであるから、上告人組合に当事者適格を認めたからといってそのために不利益を受ける者はない。

4 又 上告人組合は構成員全員からなる総会で成立した甲第一五号証の規約に、入会権の対象たる本件土地を含む全土地が上告人組合の財産と明記されているとおり、(右事実はあたかも株式会社設立において各人が現物出資したことと同じく)上告人組合設立に際し、本件土地を含む部落土地につき入会権を持っていた全入会権者はその各自の権利を、いわば現物出資として上告人組合に拠出し、これを基本財産として組合を設立したものであり、上告人組合として本件土地を売渡処分する権利を有しているのであるから、上告人組合は単なる財産管理機構に過ぎないとする原判決の判断は誤りである。

四1 現行法のもとでは、権利能力なき社団は(動産はともかく)、不動産の登記法上登記名義人となれないこととはなっているが、登記法の規定を別とすれば、権利主体として対外的に自己の権利を主張することは認められ、だからこそ、訴訟においてかかる権利能力なき社団も当事者適格が認められているのである。

2 当事者適格の存否は職権調査事項であって、原判決は上告人組合が従来の全入会権者を包含しているか否かについて審理することなく、規約の片言を捉え、上告人組合は部落財産の管理機構に過ぎないと断定している。

すなわち、原判決は上告人組合の実体を誤った上、誤った最高裁判決を引用する等の審理不尽、理由不備の違背があり、その違背は判決に明らかな影響を及ぼすもので破棄さるべきである。

第二 上告理由第二点

原判決の上告人加藤正治の被上告人らに対する各登記抹消登記の請求についての判決の判断は法令違反があり、その違背が判決に影響を及ぼすこと明らかである。

一 原判決は本件土地の権利の実態は入会部落である大畑町の部落民たる構成員五三名全体に帰属する入会権であることを前提とし、各構成員はもともと持分を有せず、これを処分することもできないが本件土地の持分登記の移転、抹消を求める登記請求は入会権者たる構成員全員に総有的に帰属していることを認める。

したがって、その論旨からすれば、構成員全体の総意があれば処分することができるものである。

二 前記のとおり上告人組合の性格、内容からして組合総会の総意により本件訴訟の提起遂行の委託がなされたことは、訴訟手続の簡素化のため認められている選定当事者の法理(民訴法四六条)にかない、かつ、権利能力なき社団においてはその実質的権利者たる構成員全員の名で登記できない結果として、その代表者名義をもって不動産登記簿に登記するより他に方法はない(最高裁昭和三九年一〇月一五日判決)のであるから信託法一一条に抵触するものではない。

三 原判決が、この点につき引用した最高裁昭和五七年七月一日判決一小・民集三六巻六号八九一頁の事案は入会権者の使用収益権を根拠に、入会地について経由された地上権仮登記の抹消登記手続を求めることはできないとしているにすぎない。本件の上告人組合は、前記のとおり、対外的には組合員の総意により土地そのものの処分権を有しているのであるから、その前提に相異がある。

よって、右最高裁判決を論拠に上告人加藤の本訴請求を棄却した原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背の違法があり、破棄を免れない。

以上

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